愛されてナンボ?
今日も外では蝉が鳴き、夏である事を否応なしに感じさせられる朝。
私は夫を仕事に送り出し、早速洗濯物を二階のベランダに干す。いつもと変わらない、いつもの家事。大概の主婦はそうやって午前中の数時間に全力を尽くす。なにしろ、ちょっとでも午後の昼寝に費やしたいし、第一、暑くなってくると、何もかもがやりたくなくなってくるから。私は次の仕事をテキパキとこなして行く。
私はふと、壁にかかっているカレンダーを見上げた。今月のカレンダーには夫の「夏休み」と、実家に帰る日にちと、ゴミの日だけが記されていて、いつもの月となんら変わらない。
私はフローリングの床を拭きながら、ため息をこぼした。
そう、他の人にはなんら変わらない、極普通の夏の日なのだ。夫はいつものように仕事に行き、夕方の6時過ぎに帰ってきて、私はそれまでに夕飯とお風呂を準備して・・・
「つまんないな・・・」
心の奥から、出た言葉。
夫は気付いているのだろうか?今日は特別な日だということを。結婚して早や一年。今日は私の誕生日なのだ。それから、二人が初めてであった月・・・私にとって、記念すべき月。でも、夫は毎日の急がしさにかまけて忘れているのだろう。そんな事はおくびにも出さない。
出会った頃は、毎日がキラキラと輝いていたっけ。夫は誠実で、でも、冗談ばかり言って。いつも私を笑わせていてくれた。結婚したばかりの時も、二人暮らしになれない私を気遣って、色々と優しく声をかけてくれて。夫婦生活は順調そのもの。毎日が楽しくって、お祭りのようだった・・・今ではそんな昔の事はどこへやら。気がつけば、夫は休みにはゴロゴロと寝ながらタバコを吸い、帰ってくるまでに夕ご飯が出来ていなければ、「お前、今まで何していた!?」っと怒られ、終いには、「浮気しているんじゃないの?」なんてことまで言われてしまう。誰が、浮気なんてするもんですか!!ただ、チョット、韓国ドラマのDVDを借りてきて、昼間にみているだけ・・・それが浮気さなんていったら、夫だって、女優の松前涼子が好きで、テレビ欄をいつもチェックしているじゃない。
私だって、今までバリバリ仕事をこなしてきて、それなりの責任ある仕事を任されていた。本当は辞めたくなんかなかった。でも、夫が「僕が頑張るから、君は家を守って欲しい」っていったから。仕方なく、家に入った。この人のためならって。でも、実際は「窓際族」みたいなもの。結婚してしばらくは、書類の関係で忙しくって、そんな事、思いもしなかったけど、だんだん手続きとか、少なくなってきて、落ち着いてくると、そこそこ家をきれいにして、夫に「ああ、綺麗にしてあるじゃん」って、言われて、そこそこ手料理作ってあげていれば、それ以上のことは言われない。「こんなもんでいいんだ」って思えてきて・・・。子供でもいれば、少しは違うのかっも知れない。でも、私、子供は出来にくいみたいだし。夫は、「まだしばらくは子供はいいかな」っていうし。なんだか、変化がない。結婚したら何かが変わって、毎日、好きな人と楽しく暮らせる・・・そう思っていた。でも、実際は違っていたのだ。
私は庭に水をまき終わっていた。次はっと・・・
風呂の窓をあけ、風呂を洗い出す。冬は冷たいけど、夏はこれほど気持ちのいい家事はないわね。そうそう、冬場はよく、夫が「夜、ポンプで水を吸い上げてからオレが洗うからいいよ」って、洗ってくれていたけって。手荒れがひどい私のことを気遣って・・・
そう、夫はそういう人だった。何も言わなくっても、私のこと分かっていてくれて。いつだったか、私が熱がでた時も、次の日も仕事なのに心配して、夜、着替えとか水を飲ませたりと看病してくれて。熱った顔しながら「アリガトウ」っていったら、優しく髪をなでて。熱でボーっとした私は、まるで、天国にいるみたいだった・・・・まあ、そこがいいところでもあるけど、物足りないとこなんだわ。
風呂をあらいおわって、私は時計を見た。もう昼近くになっている。そうだった。今日はゆっくりしている場合ではなかった!近くのスーパーで安売り売るのだ。こうしてはいられない。私は朝の残りを適当に食べ、洗物を終えると、日焼け止めを全身に塗って、帽子をかぶって、家を出た。
徒歩で15分くらいのスーパーで、買い物をして帰って来ると、既に時計は午後の2時。ふと夫を思い出して、買ってきたビール。正直、帰りは重くって、辛かったのだが、たまには・・・っと、思って買ってきたのだ。それらの物を急いで冷蔵庫に入れ、代わりに冷やしておいた麦茶を一気で飲み干した。「は~っ」生き返った。
さて、もたもたしていると、あと4時間で夫が帰ってくる。私はこの暑さで既に乾いている洗濯のもを取り込んで、たたんだ。そして、チョットだけ、テレビのワイドショーを見てから、夕食の下ごしらえを始めた。今日は夫の好きな「冷やし中華」だ。、金糸卵を作って、きゅうりとトマトと、ハムを切って、夫が来て直ぐ食べれるように準備。それから、おかずにエビチリと、ぬか漬け。五時になるころ、お風呂の給湯のスイッチを押した。さて、後は夫が帰ってくるのを待つばかり・・・。
そういえば、結婚前は、こんな日は、早く仕事を切り上げてきて、二人で美味しいレストランに食べに行ったっけ・・・。最近、ほとんど行かなくなったな・・・別に、外食がしたいわけでもないけど、そりゃ、半分はあるけど、でも、ね。今日は私の・・・
当然、玄関の開く音がした。
私は驚いて時計をみる。6時前であった。
「ただいま。あ~っ疲れた」
汗をかいた顔。ニコニコ、チョット照れくさそうな夫の顔である。
「はやかったね?」さっきまでの悪態はどこへやら、私もニコニコと笑顔になっていた。
「はい、これ」
夫は手に持っていた包みを私に手渡すと、「風呂沸いてる~?」っと、直ぐに風呂場へ向かった。私には直ぐに分かった。私の大好きなケーキ屋の包み。私の心の中が、ウワッと、熱くなった。直ぐに夫の後を追って、風呂場で上着を脱いでいる夫の汗臭い背中に抱きついた。
「止めろよ、汗でべたべたしてるだろ?」
そういいながら、まんざらでもない夫。私は夫に直ぐにキスをした。
「覚えていてくれたの?誕生日!?」
「そりゃ、君の誕生日くらいは覚えてないとね」
私はもう一度、夫にキスをした。
そうだった。私は、そんなこの人とだから、結婚したんだ。いつも心のどこかで、私のことを思っていていてくれるこの人だから・・・キスをしながら私は自分がもう少しだけ、夫に肝要になろうと、小さく誓った。


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