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ぶたに薔薇はよく似合う

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    ハゼミは思うんですが、ぶたには「薔薇」と「真珠」がよく似合うとおもうんですよね~(^^) これから、少しずつ、薔薇は時期でもありますし。写真を撮り貯めていけたらな~と思います。楽しみにしていてください。 (もしかしたら、特別ゲストもあったりしてね~)

ハゼミとゆかいなブタさんたち!

  • まだ歩くの続いてるよ〜
    ハゼミはブタが大好き!!ブタの小物やぬいぐるみを集めるのがハゼミの趣味です。 そんなハゼミの大切な宝物である、我が家の「ゆかいな仲間たち」を紹介するコーナーです。(笑) 少しづつ写真を増やしていきますので、お楽しみにね~(*^^) (ヒコちゃんにもまだ見せていないブタさんもあるんだよね~) あと、日々のブタさんとは関係ない写真とかも時々載せていきますので楽しみにしてください

トンズラ~トラベルフォト~

  • ヒコちゃんと箱根ガラスの森
    旅・・・それは英語で「トンズラ」・・・(違ったっけ?) 人は時には旅(トンズラ)をして、心も体もリフレッシュ するのです! ここではハゼミのトンズラフォト(トラベルフォト)を載せ、 皆さんも心のトンズラ(旅)をしてみてはいかがでしょう か?(笑)

カテゴリー「小説」の記事

2009年7月22日 (水)

不思議な祖母とアリス3

 「さあ、座って」

 女主人のクイーン・ミラーの後をついて行ったアリスは、不思議な部屋に通された。一面の壁には窓がなく、一面鏡が張り巡らされていた。いや、それだけではなく、天井までもが鏡張りであった。床と部屋の中心においてあるソファだけが、ミョウに現実味がある。そのソファに女主人は腰をかけ、アリスにも座るようにと手招きをする。

 アリスは戸惑いながら、ソファに腰掛けた。

 「ああ、この部屋?気になさらないでね。私、一番ここが落ち着くものだから・・・」

 少し含み笑いをしながら女主人は言うと、執事にお茶とケーキを持ってこさせた。

 「さあ、お食べになって。」

 アリスは、なんと切り出せばいいのか分からず、とにかくお茶を飲む。その間だけは、時間が稼げるし、正直、こんなに早く二人っきりになるとは思いもしなかった。余りに早い展開で、アリスは自分の心が付いていかない。ただ、濁流に飲み込まれ、必死で流れに身を任せるしかない。しかし、紅茶はいいものだ。緊張で冷え切った体を温め、ほっとさせてくれるのだから・・・アリスは、チラリと女主人に目を向けた。『本当にこのクイーン・ミラーは自分の祖母なのだろうか?』アリスは、ふと思った。金髪の美しい碧眼は、いいのだ。問題はその美しさと、どう見ても30代にしか見えないところ。もしも自分の祖母だと言うのなら、50歳はゆうにこえているのが普通だろう。それが、これ程若いなんて・・・

 「ところで、アリス」

 アリスは、ティーカップを口元から直ぐに離した。

 「は、はい。マダム・・・」

 あらあら、とでも言いたげにクイーン・ミラーアリスを見つめた。

上品な紫色のドレスが、更にクイーン・ミラーを現実離れした、神秘的な女性に見せている。まるでクレマチスの花が艶やかに咲き、アリスの目の前で人間の姿になっているかのような・・・そうでなかったら、月の精とでもいてもいいだろう。

 そのクイーン・ミラーは、不思議そうに小首を右に傾ける。

 「マダムだなんて。他人行儀な言い方はしないでちょうだいな。まったく、アンは私のことを本当に何も話していなかったの?」

 こくん。アリスはうなずいた。

 「本当に!?」

 呆れたと言うように、青い瞳が見開かれ、クイーン・ミラーはもう一度アリスに聞きなおした。そして、同様の答えが返ってきたとき、美しき女主の美しき顔には落胆の色が見えた。

 「アンらしい事・・・本当、育て方をどこで間違えたのかしら?まあ、仕方ないわね。もう貴女のパパと天国に行ってしまったんだし。私が今更文句を言って仕方がありませんわね。」

 頬杖をつきならが、女主はため息をついた。そして、心を落ち着かせたのだろう。本題へと話を変えていった。

 「私はアリアン・クーン・ミラー、みんなはクイーン・ミラーって呼ぶみたいだわね。まあ、好きに呼んでちょうだいアリス。で、簡単に話すけど、いいかしら?貴女の母アンは私の娘で、私が貴女のおじいさん、ウィリアムと30年前に離婚してね。それで、一度アンを呼び戻そうとしたんだけど、アンったら、好きな男の人が出来て、「私、その人についていきます」って。そのときに一度逢ったきり、そのまま帰らぬ人になってしまって・・・」

 アリスはただ、自分の肉親であるであろう、姉のような祖母のマシンガンの様な話を聞いているしかなかった。

 「で、使いの者にきいたら、貴女が一人で住んでいるって聞いたでしょ?私ったら、嬉しくなってしまって。とにかく会いたいと思ったの。でも、ね。貴女も知ってのとおり、私、ベーデラントにいる時間がほとんどないものだから。で、ついでに貴女、社交界デビューしていないっていたので、今日を選んだというわけなの。ああでも、嬉しいわ。私の孫がこんなに可愛らしいなんて!」

 一気にしゃべり撒くし上げると、自称祖母(見かけはどう見ても親子か、年の離れた姉)は、アリスを抱きしめるべく立ち上がり、アリスの体を抱きしめる。

 「ああ、アリス、もう離さないわ~アンの分まで、一緒に暮らしましょうね。」

 ・・・アリスは、鏡の部屋のなかで、めまいに襲われるのをぐっと我慢しようと勤めていた。心のなかで、必死に「羊」を数え、今の自分は夢の中なのだ、などと納得させようとした。

しかし、自分とクイーン・ミラーが何十人、いや何百人もの二人がである。抱き合あう姿は、ある意味、「宇宙空間」に等しいほどの衝撃をあたえ、更に緊張が一気にマックスに達した今、それはまったくの無意味な試みであった。可愛そうなアリスは、自分から意識を手放したのである。

 

2009年7月16日 (木)

不思議な祖母とアリス2

 ミラー家の大広間は総勢200人は入れるほどの広さである。床は大理石が規則正しく並び、壁はガラス貼りのサンテラスにもなっている。上座には女主人が座るための布張りのソファーが一脚置いてあり、楽隊が斜め左側に整列している。人々はそれぞれのコロニーを作り、テーブルにのった豪華な食事に舌鼓を打ち、あるものはダンス、あるものは世間話をして、華やかな社交界を演出していた。

 「そういえば、お聞きになりまして?」

 「ええ、何でもミラー様のお孫様が見つかったとか・・・」

 「そうなのよ、見つかった時には、ご令嬢ご夫妻はお亡くなりになっていて、お孫様も、あと少しのところで孤児院へ行くところだったそうよ」

 「まあ!ミラー様も本当に宜しかった事。」

 「でも、奥様。これからどうなる事か!だって、あのミラー様ですもの・・・」

 美しく着飾った貴婦人達は、よって集まれば噂話をするのだが、今夜はどこの貴婦人達の集まりに耳を傾けても、ただ一人の話で話の花が咲いていた。もちろん、この屋敷の主の孫娘の事である。

 「何でも今日はそのお孫様のお披露目だとか!」

 「でも、どうでしょう。あの方、私が記憶している限り、余りお美しくはありませんでしたわ!」

 「あら、ミラー様の夫君であったミラー侯爵にはたいそうにていらっしゃいましたわ・・・」

 「まあ、たいした事はございませんわよ。だって、ご令嬢のアリア様は男と駆け落ちして田舎暮らしだったとか。その娘様でしょ?まあ、余り大きな声では言えませんけど、案外、田舎臭い娘に違いありませんわ。」

 美しい貴婦人達。でも、内心までが美しいわけではない。彼女達は常に富と権力のあるところに群がり、美しい羽の扇で、醜い心を人前に出さないだけ。美しいドレスや宝石で着飾り、香水で自分達の悪臭を隠しているのだから。

 「でも、ミラー様には・・・」

 「そうですわ、あの方がいらっしゃりますもの!」

 パチン。扇を閉じると、一人の貴婦人は意地悪く笑った。

 「ええ、そうですわ。あの方が黙っているはずがございませんわ。だって、ミラー様は、あの方にお決めになったはず。いまさらのこのこと出てきたって・・・」

 丁度その時だった。

 執事の一人が部屋に入ってきた。そして仰々しく大きな声を張り上げた。

「アリス・ミラー様!」

 広間にいた全ての人々の視線が下座のドアに釘づけになる。

 視線の先からは、金髪の美しい少女、アリスが現れると、人々の口々から、賞賛のため息がもれた。先ほどまで、意地悪な事を言っていた貴婦人達も、見た目は感服したらしい。アリスが執事に先導されながら、ゆっくりと上座の方へと歩き出すと、人々は固唾を飲み、その姿を見つめた。

 執事がまだ来ぬ主の椅子までアリスを連れてくると、仰々しく頭を下げ、その場を去っていった。アリスは急に一人ぼっちにされてしまったのだ。毅然と立ってはいたが、正直、自分の居場所がないのを感じていた。『早くこの場から立ち去りたいのに・・・』アリスは短い時間その場に立っているだけなのだが、まるで1時間以上立たされているような気がしてならなかった。いや、もしかしたら永遠に・・・・

 その時だった。

 「奥様がいらっしゃいました!」

 上座の横にある、大きな、重厚な扉が音もなく静かに開き、人々が頭を垂れる。アリスもそれに続いて頭を垂れた。スルスルと絹を引きずる音が扉の方から聞こえ、上座の方へと移動してくるのがわかる。屋敷の女主がアリスの目の前の椅子まで来ると、人々は頭を上げた。アリスもそれに習って恐る恐る顔を上げた。それと同時にアリスは、息を呑んだ。

 目の前にいたのは、30歳くらいの美しい女性であった。

 「皆さん、よくいらしてくださったわね。楽しんでいってくださいね。」

 女主人がそう言って、左手を上げると、音楽が鳴り響き、人々のガヤガヤとした会話が始まった。

 女主人は、それを確かめると、アリスに目を向けた。アリスはどうしたらいいのか分からず、体が動かない。美しい女主人はアリスのところまでやってくると、「貴女がアリスね?」と、優しく声をかけた。そして、ゆっくりと手を伸ばし、アリスの手を握り締めた。再び、広間の人々の注目は上座へと集まり、今度はザワザワと二人の噂で持ちきりとなる。その中、女主人は人々に向かってこう叫んだ。

 「皆さん、ご紹介が遅れましたが、私の孫のアリスよ。」

 女主人はアリスに目配せをして、挨拶を促す。アリスは教えてもらったとうりに完璧な挨拶をすると、人々から拍手が起こった。

 「さあ、アリス。こっちにいらっしゃい。」

 アリスを自分の出てきた扉に向かわせると、女主人はこういった。

 「私は孫と話がありますの。皆さん、ごゆっくりなさっていってくださいな。」

 そして、アリスの後に続くと、召使が重々しい扉を閉ざした。

 

 

 

2009年7月15日 (水)

不思議な祖母とアリス 1

 アリスは、鏡に映っている自分見つめていた。

 10代の美しいアリス・・・金髪の髪は結い上げられ、ホッソリとした四肢には絹の手袋。胸元が大きく開いた青いパーティードレスは彼女の肌の白さを引き立たせる。後は自分nの瞳と同じ色の美しいサファイヤのチョーカーと、イヤリングで飾れば・・・

 アリスは鏡の中の自分を食い入る様に見つめる。鏡の中のアリス・・・

 しかし、アリスは美しく着飾った自分に何故か親しみがもてなかった。10代の娘ともなれば、美しく着飾った自分の姿を見て、胸は高鳴り、これから訪れるであろう、華やかな世界や、ロマンスに夢見て、今か今かとそのときを楽しみにする事であろう。

 でも、アリスは少し事情が違っていた。不安で、今にも胸は押しつぶされそうな程であった。

 今夜、アリスは社交界にデビューするのだ。レディーとして、完全なる社交界デビューを果たさなければならない。人々の目はアリスに向けられ、賛否両論を唱えるに違いない。莫大な富と、それにふさわしい地位と名声をほしいままにしてきた大富豪、女王のようにこの国の経済を左右してきたクイーン・ミラーの孫として始めて会う日でもあるのだから・・・

クイーン・ミラー・・・アリスはそのクイーン・ミラーのただ一人の孫娘である。いや、そうらしいと言った方が正しいのだろう。そのことを知ったのは、半年ほど前のことなのだ。

 そう、あの忌まわしい夜、父と母が馬車の事故に巻き込まれ、亡くなった夜。アリスは家にやってきた、クイーン・ミラーの執事と名のる、ウィットンより聞かされたのだ。そして、訳が分からないままレディーとしての教養を覚えさせられ、何とか今日の日にこぎつけたのだ。ただ、肉親に会いたいという一身で・・・

 しかし、アリスは後悔していた。ウィットンが来た時、御伽話だと笑い飛ばしていれば・・・ウィットンの後をのこのこつい来たのは間違いだったのかも、と。

 正直、アリスには分からなかった。自分の母がクイーン・ミラーの一人娘で、父と二人で、駆け落ちをしたなんて、本当なんだろうか?母はどちらかと言うと、農場の女将さんと言ったような人だった。おおらかで、朗らかで。食事は、どんな粗末なものでも、すばらしく美味しい料理に作る事ができる人だった。縫い物をさせれば、下町で一番の腕前で、ドレス屋で1番腕のいいお針子だった。どちらかと言えば、父の方が柔和で、線の細い人だ。間違っても、母が富豪の娘だなんてありえない話なのだ。

それに、だ。アリスは、どちらかと言えば、外見は父に似ている。もし、父の事を罵倒されたら?!いいや、それ以前に人間違いだったら?!

 後から後から、不安がアリスの小さなノミのような心臓を驚かせ、今にでもこの場から逃げ出したいほどなのに・・・

 でも、もしも、本当に自分のおばあさんだったら?

 今、アリスを突き動かすのは、山ほどある不安よりも、たった一筋の明かり。自分にもしかしたら肉親がいるのかもしれないということ。そのために、ウィットンに付いて、ここまで来たのだ。そう、一目でも会えたのならそれでいいのだ『奥様はアリス様にお逢いしたがっておられました』と、ウィットンも、言っていたではないか。それだけで、アリスは生まれ育った田舎のコールドノースの町に帰るつもりだったのだから。半年間、ミラー家の夏の別荘で暮らしたが、便利で、綺麗で豪華で・・・まるでお姫様の様な生活だったが、なじむ事が出来なかったし、それに日に何度も着替えたり、レディーになるための教育はいささか疲れてしまい、アリスにしたら苦痛以外の何者でもなかった。

「おばあさんだって分かってくれるはず・・・」

 鏡に映る儚げな自分にそう言い聞かせながら、アリスはうなずく。

 帰りの電車賃と、仕事が見つかるまでの間の食いつなぐための一週間分の生活費は恵んでもらわないといけないが、それぐらいはお金持ちだから、多分大丈夫だろうけど、もしも、もらえなかったとしても、母から教わった針仕事もある。このミラー家がある大都会、ベーデラントなら、大なり小なり仕事あるだろうから、お金を貯めてからだってコールドノースに帰ってもいいだろう・・・

 「アリス様、そろそろお出ましを」

 初老の執事がドアの外でノックとともに声をかけてきた。

 アリスは静かにその場を離れ、ドアに向かった。

 

2009年1月10日 (土)

第一章 ジ=パング2

  サージャリオン・・・皆からはサージャと呼ばれている・・・は、漆黒の馬車が急に停車したことで目が覚めた。国を出てから3日間、馬車が止まったことなどは彼の記憶の中ではコレが始めてである。

 馬車の外からは荒々しい男達の声と、馬が数頭いるらしい。兄より賜った雨群雲之剣が、手の中でひんやりと存在を感じさせる。仕方なく、サージャはツバ広帽子を深々とかぶると、馬車の外へと出て行った。外は、まだ日も落ちていないだろうが、森の中は薄暗い。

 馬車を止めたのは、この辺りの盗賊達であった。6人で、街道を通る貴族や帝都に向かう商人の小隊を狙っているのだろう。其の成果もあって、目利きはいいらしい。

 「こいつはすげーぜ!」

「この馬、ジ=パングの馬だぜ。それに、この馬車、見た目は地味だがかなりの高級品だぜ。神魔道師の馬車だ。」

 6人はジロジロとサージャを嘗め回すように品定めをしたいた。着ている服も、地味なものだが、生地は最高級の物だし、それに帽子の下から見える口元は美しい顔を思わせる。そして何より、彼の手の中にある、古ぼかしい剣の柄にある紅玉・・・アレだけの大きさの紅玉はそうめったにある代物ではない。それに好都合な事に、たった一人しか乗っていない・・・彼らは『上等な獲物』だと、サージャを判断したらしい。

 「やい、通行料を置いていけ。嫌だって言うんなら、命はないぞ!!」

 どうやら、頭にターバンを巻いているやつがリーダー格の様らしい。一歩前に出ると、サージャに剣を向けてこういった。盗賊達も勝ち誇った笑い声を上げる。いくら街道であっても、人気のない森の中、大声を出しても、通行人がいるわけではない。いたとしても、其の間に自分達は安全にそこを通過しなくてはならない。公国から一歩でれば、こんな事は日常茶飯事である。だから、多くの場合、神魔道師に頼んで、安全に送ってもらうのだが、コチラは金額が高くつくので、一般の人は街道を往来していたのだが・・・

 「悪いね、俺たちも不景気だから、こうしないと生きていけないんでね」

 盗賊は悪気もなく、サージャの帽子に手をかけた。

 「あれ?」

 しかし、盗賊が手にしたのは何もない空中であった。直ぐ脇に、先ほどと寸分たがわないサージャが立ている。盗賊はもう一度、サージャの帽子を掴もうとした。すると今度は、その手が自分の首を掴んできたのだ。

 盗賊の

2009年1月 8日 (木)

第一章 ジ=パング1

聖アキューレ帝国は四つの公国と帝都からなっており、それぞれの公国では気候も風土も習慣も人種もそれぞれが異なっている。いわば、他民族国家である。東方ジ=パング公国はジパング人が85%を占める国である。漆黒の髪と瞳を持ち、象牙の肌の民・・・ジパングー人は、もともと海と森の民であり、木造船を作る技術によって帝国の「海の玄関」として発展してきた。名実共に帝国第二位の都である。

 それに、もともとジ=パング公家は、アキューレの初代皇帝、サディウス・アキューラ大帝の義弟、ジン・エヴァンが起こした家系であり、ロード(筆頭大公)の称号の世襲を与えられている、皇帝家に告ぐ名家である。ジ=パングの居城、エド宮殿ではその高貴で、皇帝に次ぐ実力者である大公にあやかろうと、多くの貴族・商人・芸術家が集い、毎晩のように華やかな晩餐会が催されていた。しかし、このエド宮殿の主に目どおりが出来るものは、本のわずかであった。

 その、麗しのジ=パング大公の主、タリューニオ・ロイ・ジ=パングは30歳の青年である。彼は早くに自分にそっくりであった、美しい母を亡くし、前大公であった父も10年前に亡くした。肉親といえば、14歳年下の弟だけである。若き美貌の大公と弟・・・それだけでも話題の的であるのだが、若き大公となったタリューニオは才能もずば抜けていた。学術、特に神魔道の領域においては、シュレン=ライの大神官であるゼオから次席神官の地位を17歳の時に授けられ、20歳にして、摂政としての地位に着いたのである。(今上帝はタリューニオの従弟にあたる)更に、美しさと来たら、まるで生きた彫像、神が授けたもうた美として、熱烈な求婚者が後を絶たない。天は二物を与えないというものだが、彼に関しては例外中の例外なのであった。

 しかし、彼の才能をもってしても、公務は山となっていた。片付けても片付けても・・・どんなに地位と名誉と富を持っていても、どこかに必ず「つけ」というものは廻ってくるのだ。若き大公はまだ幼い帝の仕事と、自分の領土の仕事を一手に引き受けており、この10年間というもの、日が暮れるまで「業務」に追われていた・・・変われるものもいないのが現実なのである。彼がその場でサインをすれば、直ぐにそれは帝都へと運ばれ、また、必要によってはその場で直ぐに指示も出さねばならない。神魔道の技や魔術を使えば、直ぐに済むことなのだが・・・大公はあまり人前ではその力は使わないようにしていた。

 日もかなり傾きかけてきた頃、大公はやっとお茶の時間を確保する事が出来た。彼はカシャの茶を侍女に用意させると、香を楽しんでから口元にゆっくりと運んだ。カシャの茶は、海の向こうのメディティーナ大陸より取り寄せたもので、柑橘系の香がする。亡き母がよく飲んでいたものだった。長い漆黒の髪を後ろに三つ網にし、スラリとした長身の美しい青年大公・・・

 「やあ、ヤーフェル。私の美しさに見とれたのかい?」

 タリューニオは美しい涼やかな笑みで客人を迎え入れた。

 「お前の美しさなぞ、マーニャ様に比べたら雲泥の差だわ」

 タリューニオは、声の主=ヤーフェルを部屋に招きいれた。ヤーフェルはタリューニオの竹馬の友であり、ジ=パング公家に代々仕える将軍の家柄である。彼の言う「マーニャ様」はタリューニオの亡くなった母の名である。

 「お前は昔から母上が最愛の女性でしたからね。残念な事に私は『最愛の男性』ですから。」

 「お前とふざけるつもりは、これっぽっちもない。」

 ヤーフェルは、手に持っていた手紙をタリューニオに手渡した。封には帝の印が記されていた。

 「半月後に予定されている『封印の儀』に参加するようにとの帝からの詔だ。」

 「ふむ・・・そんな時期でしたか?」

 「よく言う。お前は全てを知っているくせに!」

タリューニオはまるでネコのようにニヤリと笑いながら手紙に目を通すと、直ぐに侍従を呼ぶように手で合図した。

 「私は、ただ、一部分を知っているだけだよ」

 ヤーフェルの目が、やや中央に寄って、タリューニオを見ていたが、侍女が用意した飲み物をグいっと飲み干すと、口を腕で一気にふき取った。対照的な男二人。クスクスとカーテン越しに笑い声がする。その声も、侍従がやってくると、直ぐに聞こえなくなっていた。

 「及びでしょうか?殿下」

 「ああ、サージャに例の物を・・・」

 侍従がその場を後にするときには、既に侍女たちも部屋から席をはずしていた。静かな部屋に夕日が優しく差し込んでいる。

 「サージャを呼んで、おまえ、どうするんだ?」

 「ええ、これは彼の仕事です。彼に行ってもらいます。」

 優雅にそれでいて思い言葉。ヤーフェルは耳を疑った。

 「まてよ、サージャはまだ16歳だ。それに、帝都での状況とか知らないだろう?」

 「ええ、丁度社交界へのいいお披露目となりますし。サージャも色々と自分の運命を知らなくてはいけませんから。」

 ニコニコ・・・タリューニオがこんな表情をする時は、必ず一物心に持っている事を古い付き合いのヤーフェルは知っていた。

 「何を考えているんだ・・・」

 ヤーフェルの脳裏にはタリューニオによく似た、まだ幼さの残る顔が浮かんでいた。ヤーフェル曰く、「マーニャ様に似ている」可愛い弟分・・・彼はブルブルとかぶりを振tった。

 「駄目だ駄目だ!あいつはお前のような化け物じみた腹黒い奴とは違う!」

 タリューニオはクスクスと笑った。

 「おや、では『最愛の男性』にも私はなれないようですね?』」

 「俺は帝都なぞへ、行かせないからな!」

 タリューニオは「おや?」っといった顔をすると、湯のみを机の上に優雅に置いた。そして、眼下を疾走する一台の馬車を見下ろしていた。しばらくして、馬車の姿が森の中に入っていった頃、ヤーフェルが口を開いた。

 「で?奴はどこにいる。今すぐに・・・」

 「もう、見えなくなってしまいました。流石、わが国の野生馬は走りが違いますね♪」

 ヤーフェルは全身がワナワナと震えていた。そして

 「本当にどこまで腹黒い奴だ」

 と、一言口にした。

 「大丈夫、アレには私からあるものを渡しました。それに、神魔道の極意もね。これで、弟も鬼に金棒でしょう。私も後から行くつもりですし・・・」

 「アレだと?」

 「ええ。雨群雲之剣をね」

 ヤーフェルは軽いめまいを感じながら、既に旅立った公弟に思いを馳せた。これから始まるであろう、彼の苦難を心から心配して・・・

 そんなヤーフェルにタリューニオはこうつぶやいた。

 「既に彼の運命は動き出しているのです。これは生まれる前からの定めなのですよ・・・」

 

 

 

紅のサーガ~プロローグ~

 三千年の昔

 アキューレの地は神の血を引く5人の王が治めていた

 5人の王は、私利私欲を求め合い、いつしか豊かだったアキューレは餓え、いつしか戦場と化していった

 そして、誰もが生きる事を嘆いた時、6人目の神の血を引く王が神剣わ携え人々の前に現れた

 6人目の王は神剣をもって、見事5人の王たちを倒すと、アキューレの天地と人々に祝福され、5人の王が成し得なかったアキューレの統一を果たしたのである

 こうして6人目の王は初代皇帝の座に封じられ、アキューレ帝国が開闢したのである・・・

           ーはるかなる伝説であるー

 

2008年10月23日 (木)

ロング・パーマ

 女は魔性である。

 昔の人はよく言ったものだ。女の本性を見事に言い当てている。

 彼女もその例からはみ出ないのだから・・・

 そう、今現在、俺の目の前にいる彼女も、魔性である。

 なぜなら、ついこの間まで、普通のロングヘアーで、『可愛いな・・・』って。もともと、俺はロングヘアーの女の子が好きで、彼女は俺のタイプだったから、口説き落として付き合いだした。早いもんで、3ヶ月か。

 で、今日、だ。

 今、目の前にいる女の子・・・いや、女は、紛れもないあの可愛い彼女なのだが、髪型が違っていた。

 「似合う?」

 にこやかに可愛い笑顔は、妖艶な「女」の顔なのだ。

 「パーマ、かけたんだ?」

 ドキドキしながら、わざとらしく視線を彼女からはずして、俺は言った。

 「うん・・・たまにはいいかな~って思って・・・」

 さにげなく、彼女は見事な巻き毛を掻き揚げる。白い肌が、黒い巻き毛の間からスウって出てくると、俺はどうしていいのか分からなくなりそうだ。それに、今日は大人っぽく、真っ赤な口紅が口元を彩っていた。服装は、いつもとさほど変わらないのに・・・

 「変、かな?」

 少し、照れくさそうに彼女は俺の顔を覗き込んでいる。その仕草は、いつもと同じなのに・・・とてもセクシーに思えて、更に俺はドキドキと胸の鼓動が早まる。出来るだけ、俺は彼女にばれないように冷静さを保つようにしたが、鼓動が彼女にも聞こえてしまっているような気がして、わざとらしいような態度となってしまう。

 「いや、似合ってるよ・・・」

 苦し紛れに一言。

 一瞬、いつもの彼女の可愛らしい笑顔がのぞいて見えた。パッと表情が明るくなり、ニコニコと笑う顔。俺は、少しだけ、ほっとした。

 「よかった。変って言われたらどうしようかって、思ってたの。嬉しい、ありがとう!」

 可愛くって、妖艶な俺の彼女・・・

 俺は彼女に完敗である。

 「今日はどこに行こうか?」

 彼女がスルっと、俺の腕に手を巻きつけ、見上げている。彼女の巻き毛が、腕に感じられる。前とは少し違う感覚だが、やはり、ロングの髪は俺は好きだ・・・

 「腹減ってない?」

 「お腹すいた~朝、髪にジェルつけてきたり、前髪ブローしたりでね・・・」

 彼女が楽しげに話す姿は、今までよりも女がパワーアップしていて、正直、戸惑うが、悪くはない。それどころか、新たな彼女の魅力が分かって、ますます魅力的見えた。

 俺って、単純なんだな・・・

 そして、自分もことも再確認したりして。

 「どうかした?」

 彼女が不思議そうに目を大きく見開いた。その、仕草に、再びドキドキしながら『なんでもない』っと、俺は笑顔で返した。そして、その時、俺は彼女にとらわれてしまった事をいまさらながらに、思い知らされた。

そう、彼女の黒くて長い巻き毛に・・・

2008年8月 6日 (水)

愛されてナンボ?

 今日も外では蝉が鳴き、夏である事を否応なしに感じさせられる朝。

 私は夫を仕事に送り出し、早速洗濯物を二階のベランダに干す。いつもと変わらない、いつもの家事。大概の主婦はそうやって午前中の数時間に全力を尽くす。なにしろ、ちょっとでも午後の昼寝に費やしたいし、第一、暑くなってくると、何もかもがやりたくなくなってくるから。私は次の仕事をテキパキとこなして行く。

 私はふと、壁にかかっているカレンダーを見上げた。今月のカレンダーには夫の「夏休み」と、実家に帰る日にちと、ゴミの日だけが記されていて、いつもの月となんら変わらない。

私はフローリングの床を拭きながら、ため息をこぼした。

 そう、他の人にはなんら変わらない、極普通の夏の日なのだ。夫はいつものように仕事に行き、夕方の6時過ぎに帰ってきて、私はそれまでに夕飯とお風呂を準備して・・・

 「つまんないな・・・」

 心の奥から、出た言葉。

 夫は気付いているのだろうか?今日は特別な日だということを。結婚して早や一年。今日は私の誕生日なのだ。それから、二人が初めてであった月・・・私にとって、記念すべき月。でも、夫は毎日の急がしさにかまけて忘れているのだろう。そんな事はおくびにも出さない。

 出会った頃は、毎日がキラキラと輝いていたっけ。夫は誠実で、でも、冗談ばかり言って。いつも私を笑わせていてくれた。結婚したばかりの時も、二人暮らしになれない私を気遣って、色々と優しく声をかけてくれて。夫婦生活は順調そのもの。毎日が楽しくって、お祭りのようだった・・・今ではそんな昔の事はどこへやら。気がつけば、夫は休みにはゴロゴロと寝ながらタバコを吸い、帰ってくるまでに夕ご飯が出来ていなければ、「お前、今まで何していた!?」っと怒られ、終いには、「浮気しているんじゃないの?」なんてことまで言われてしまう。誰が、浮気なんてするもんですか!!ただ、チョット、韓国ドラマのDVDを借りてきて、昼間にみているだけ・・・それが浮気さなんていったら、夫だって、女優の松前涼子が好きで、テレビ欄をいつもチェックしているじゃない。

 私だって、今までバリバリ仕事をこなしてきて、それなりの責任ある仕事を任されていた。本当は辞めたくなんかなかった。でも、夫が「僕が頑張るから、君は家を守って欲しい」っていったから。仕方なく、家に入った。この人のためならって。でも、実際は「窓際族」みたいなもの。結婚してしばらくは、書類の関係で忙しくって、そんな事、思いもしなかったけど、だんだん手続きとか、少なくなってきて、落ち着いてくると、そこそこ家をきれいにして、夫に「ああ、綺麗にしてあるじゃん」って、言われて、そこそこ手料理作ってあげていれば、それ以上のことは言われない。「こんなもんでいいんだ」って思えてきて・・・。子供でもいれば、少しは違うのかっも知れない。でも、私、子供は出来にくいみたいだし。夫は、「まだしばらくは子供はいいかな」っていうし。なんだか、変化がない。結婚したら何かが変わって、毎日、好きな人と楽しく暮らせる・・・そう思っていた。でも、実際は違っていたのだ。

 私は庭に水をまき終わっていた。次はっと・・・

 風呂の窓をあけ、風呂を洗い出す。冬は冷たいけど、夏はこれほど気持ちのいい家事はないわね。そうそう、冬場はよく、夫が「夜、ポンプで水を吸い上げてからオレが洗うからいいよ」って、洗ってくれていたけって。手荒れがひどい私のことを気遣って・・・

 そう、夫はそういう人だった。何も言わなくっても、私のこと分かっていてくれて。いつだったか、私が熱がでた時も、次の日も仕事なのに心配して、夜、着替えとか水を飲ませたりと看病してくれて。熱った顔しながら「アリガトウ」っていったら、優しく髪をなでて。熱でボーっとした私は、まるで、天国にいるみたいだった・・・・まあ、そこがいいところでもあるけど、物足りないとこなんだわ。

 風呂をあらいおわって、私は時計を見た。もう昼近くになっている。そうだった。今日はゆっくりしている場合ではなかった!近くのスーパーで安売り売るのだ。こうしてはいられない。私は朝の残りを適当に食べ、洗物を終えると、日焼け止めを全身に塗って、帽子をかぶって、家を出た。

 徒歩で15分くらいのスーパーで、買い物をして帰って来ると、既に時計は午後の2時。ふと夫を思い出して、買ってきたビール。正直、帰りは重くって、辛かったのだが、たまには・・・っと、思って買ってきたのだ。それらの物を急いで冷蔵庫に入れ、代わりに冷やしておいた麦茶を一気で飲み干した。「は~っ」生き返った。

 さて、もたもたしていると、あと4時間で夫が帰ってくる。私はこの暑さで既に乾いている洗濯のもを取り込んで、たたんだ。そして、チョットだけ、テレビのワイドショーを見てから、夕食の下ごしらえを始めた。今日は夫の好きな「冷やし中華」だ。、金糸卵を作って、きゅうりとトマトと、ハムを切って、夫が来て直ぐ食べれるように準備。それから、おかずにエビチリと、ぬか漬け。五時になるころ、お風呂の給湯のスイッチを押した。さて、後は夫が帰ってくるのを待つばかり・・・。

 そういえば、結婚前は、こんな日は、早く仕事を切り上げてきて、二人で美味しいレストランに食べに行ったっけ・・・。最近、ほとんど行かなくなったな・・・別に、外食がしたいわけでもないけど、そりゃ、半分はあるけど、でも、ね。今日は私の・・・

 当然、玄関の開く音がした。

 私は驚いて時計をみる。6時前であった。

 「ただいま。あ~っ疲れた」

 汗をかいた顔。ニコニコ、チョット照れくさそうな夫の顔である。

 「はやかったね?」さっきまでの悪態はどこへやら、私もニコニコと笑顔になっていた。

 「はい、これ」

 夫は手に持っていた包みを私に手渡すと、「風呂沸いてる~?」っと、直ぐに風呂場へ向かった。私には直ぐに分かった。私の大好きなケーキ屋の包み。私の心の中が、ウワッと、熱くなった。直ぐに夫の後を追って、風呂場で上着を脱いでいる夫の汗臭い背中に抱きついた。

 「止めろよ、汗でべたべたしてるだろ?」

 そういいながら、まんざらでもない夫。私は夫に直ぐにキスをした。

 「覚えていてくれたの?誕生日!?」

 「そりゃ、君の誕生日くらいは覚えてないとね」

 私はもう一度、夫にキスをした。

 そうだった。私は、そんなこの人とだから、結婚したんだ。いつも心のどこかで、私のことを思っていていてくれるこの人だから・・・キスをしながら私は自分がもう少しだけ、夫に肝要になろうと、小さく誓った。

 

2008年5月 1日 (木)

クリスタリアス・登場人物その一

リアス

セレスティアルでアレックスとであった。(実年齢は不明だが、見た目は20歳くらい)

銀の髪と、緑と赤に瞳の色が変わる、珍しい瞳の持ち主で、美しい顔立ちの娘。 しかし、実は《神の献花》と言われる『ブラウカ(セレスティアルでは神の化身として崇められている)』の現在の器(巫女)であり、不思議な力を持っている。アレックスと『ブラウカと交わした契約』を果たすため、いくつかの旅にでる事に・・・

アレックス

本名:アレックス・ロサ・ギガンティア(25歳)

金の柔らかな髪と、青石のように深く澄んだ瞳を持つ好青年。(女性に関しては健全な男子)。帝位継承のためセレスティアへ出向いたところで、リアス(ブラウカ)に会う。そこで古き血と、古き剣のもと、ブラウカと神聖な『契約』を交わす。そのためにリアスと旅にでる事に・・・

サファーヤ

ロサ・ギガンティア、第一帝位継承者で、アレックスの兄。ブラウカに会う事が出来なかったという幸運から、現在は絵画の巨匠に弟子入りしてしまう。

サファイナ

ロサ・アルバの姫君。蒼い瞳で、黒い髪を方までのところで切りそろえている。愛する人、ルービンを待ち続ける。

アーバン

サファイナ姫の従者の老婆。

ルービン

本名:ルービンセン・ロサ・ルキエ。アレックスと瓜二つの顔の青年。紫の瞳の持ち主。サファイナ姫を《ロサ・アルバの蒼きバラ》と呼んでいたが・・・

       

クリスタリアス19

 リアスとアレックスは、広間を背に歩き出した。アレックスはふと思った。先ほどまでの印象・・・つまり、《気味が悪い》と言う印象が、今では薄らいでいると言う事実が、不思議と感じられていた。

 「先ほどまでは、水晶が怨念という思念波でコントロールされていたからであろう」

 リアスは、またアレックスの心のうちを読んで、そう答えた。アレックスがいた部屋の前も通り過ぎ、更に二人は奥へと進む。

 「そういえば、リアス、この先で何をしていたんだ?」

 アレックスは先を歩くリアスに声をかける。

 「この先には祭壇があるのだ。そこで、化け猫(アーバン)が負の力の源となる水晶を手に入れた・・・最も、始めはこの地を浄化するために、先代のブラウカが置いたものなのだが・・・」

 しばらく、単調な廊下を歩いていくと、扉があった。扉は開け放たれており、二人は何の抵抗もなく中へと入っていった。

 扉の中は光が差し込むところから先は真っ暗で、この扉から先、どれだけ広いのか、推し量る事が出来ない。ほどである。置くからは、冷たい風が肌を優しく撫でる。

 「ここは?」

 アレックスの声がエコーがかかった様に聞こえた。リアスの瞳は、緑色に輝く。

 「大地の祭壇」

 リアスは先ほどの青い、三つの星が輝く水晶を取り出していた。そして、水晶に息を吹き込むと、水晶はまるで目を覚ましたかのように、明るい青い光を帯びて輝きだした。その輝きは《大地の祭壇》を明るく照らし出し、アレックスも、思わず息を呑んだ。

 赤・青・黄色・ピンク・緑・紫・白・銀・金・茶色・黒・・・

 まるで万華鏡のように、色とりどりの鉱物で埋め尽くされた空間。いや、ごく一部であろう、者たちは果てしなく下へと垂直に続く空間を埋め尽くしていた。それなのに、どうしてなのか、どれも規則正しくそこにあるように見える。

 「さあ、お前たちも、この中でゆっくりと休むがいい」

 リアスはふんわりと水晶を手放した。水晶はそのまま、輝きを失う事もなく、地に落ちる事もなく、宙でとどまった。

 「これで、契約の一つ目は無事に終了したな。」

 リアスは振り返って、アレックスに微笑みかけた。アレックスはその瞬間、この世の者とは思えないほど、美しいものを目にした。

 美しい・・・それだけではない、神秘的なもの。まるで神殿にあるステンドグラスを背に、神々しく笑いかける、彫像の女神のように・・・

 しかし、その後、リアスの瞳は赤みを帯、アレックスの顔面に一発拳を食らわしていたのは、アレックスのその後の想像がいかに、健全な男子であるかを物語っていたのは言うまでもない。

クリスタリアス18

  老婆は、手にしていた水晶だけを胸にし、今にも息絶え絶えとしていた。

 リアスは、老婆アーバンに音もなく近づき、シワシワの顔に手をかざした。すると、アーバンはゆっっくりと形を変えていった。

 「ね、ネコ?!」

 アレッックスは自分の目を疑った。確かに先ほどまでアーバンだと思っていたモノは、巨大な犬ほどの大きさの猫となっていた。

 「そう、アーバンは唯一のサファイナの従者だった。彼女が死んだ後、この神殿で偶然魔力の秘められた水晶を見つけたのだろう。サファイナ姫の魂を死体に封印し、二人で80年もの間、ここで暮らしてきたのさ。」

 リアスはそういうと、巨大なネコの胸のあたりから先ほどのサファイナが閉じ込められた水晶を取り出した。そこには、今も美しいまま、ルービンセンに恋するサファイナがあった。

 「さて、当事者に後は頼むとしよう。」

 リアスは、ルービンに水晶を渡した。

 《ルービン・・・愛しのルービンセン・・・》

 水晶の中で、蒼い瞳の美しいサファイナはささやく。それに答えるかのように、ルービンは、水晶を高らかに片方の手で持ち、片膝をついた。

 「サファイナよ、ロサ・アルバの『蒼きバラ』よ・・・我が美しい姫よ。長い事、貴女を待たせてしまったね。でも・・・私は今、貴女を迎えに来た。お互い、この世界では水晶に身をやつしたが、もう二度と離れる事はない。そう、貴女の大事なアーバンも一緒に・・・」

 ルービンの体は、光を帯び、サファイナのクリスタルと融合しながら、次第に小さくなっていった。光の塊は淡く蒼と紫に輝き、猫となったアーバンの上で輝いていた。

 「アレックス、剣を・・・」

 リアスが促すのと同時に、アレックスは剣を鞘から抜いた。そして、融合した二つの魂を導くかのようにアーバンの額に剣先を振り下ろした。蒼と紫の輝きは、アーバンの体の中へと吸い込まれるようにスウッと入っていった。それと同時に、アーバンの体が蜜色に輝きだし、一瞬、体が膨張したかと思った。しかし、額の辺りが蒼く輝きを放った瞬間、アーバンの体は消え、宙に青い色のクリスタルだけが残ったのだ。

 「これは・・・!?」

 アレックスは、はっとした。水晶の中には蜜色と蒼と紫の星がキラキラと輝いて見える。

 「さて、ついてくるがいい」

 リアスは青いクリスタルを手に掴むと、広間を後にした。それに続いてアレックスも広間を出た。

 

2008年4月28日 (月)

クリスタリアス17

 『残念だったな。逃れるすべはないぞ。』

 アレックスは、ハッとして光の中心点を見た。確かに光で包まれた部屋は、先ほどと少しも代わりがなく、水晶を持ったアーバン自身も、現状が理解できないとでも言うようにあわてふためいていた。

 『ご苦労であったな、アレックス、ルービン』

 声はリアスのモノであったが、目の前のルービンの隣にいるリアスは口を閉じたままであった。アレックスは、胸がチリっと熱くなるのを感じると、(またか?)と、思った。服を覗き込むと、懐中に入れてあった黒水晶が光を帯、熱を帯びている。

 次の瞬間、光が線を描いて、一直線にリアスへと向かった。リアスの体はまるで稲妻を受けたようにビクンっと動いたかと思うと、ニヤリと、笑みを浮かべた。瞳は鮮血色を浮かべて老婆を見据えている。アレックスには分かった。いつものリアスに戻ったのだと。

 「お前の力源は、既に私が砕いた。もはやお前の思念のみ。さあ、おとなしくサファイナ姫をコチラに渡してもらおう。さすれば、お前も悪いようにはしまい。もし争うのであれば・・・」

 リアスは言わなかったがアレックスには聞こえていた。

 《アレッテクスの持つ剣で、浄化する事になる》と。

 アレックスはチラリと剣を見やる。この剣はどれだけの力があるのか?と不思議に思えてしまう。見た目は少々年代モノだが、使い勝手のいい剣なのだが・・・柄は何年、いや、何十年も使い手の手で汚れ、曇っているが、大きな赤い宝石だけは『今でも血を欲している』のだと語っているではないか・・・そう考えると、この剣は逆に汚れているのではないだろうか・・・

 「何故、何故ですじゃ?!」

 老婆の悲痛な声が、アレックスを現実へと戻らせる。

 「こんな奴のために、サファイナ様と私はこんな片田舎に80年以上閉じ込められていたのに。お前が姫様の心を奪わなければ、私だって、こんな朽ち果てた姿になんぞなら何だのに!」

 老婆はなおも怒りを露にした。

 「私が姫様のお世話役となって直ぐ、ルービンセン様は姫様の前に現れて、姫様はルービンセン様に恋をなさった。ルービンセン様も姫に恋を打ち明けられたのに・・・なのに」

 ルービンセンはサファイナの元にはその後現れなかったのだ。

 「仕方がなかったのだ」

 ポツリ。ルービンはつぶやいた。

 「サファイナは当時、大国のロサ・へレナエに婚約者がいたのだ。小国ロサ・ルキエの王子である私に何が出来ようか?!」

 確かに、当時は南国ロサ・ヘレナエの王とサファイナは婚約をしていたのは事実で、ロサ・アルバはロサ・へレナエの飛び地的な国であった。もし、ロサ・ヘレナエに刃向かおうものなら、片田舎のロサ・アルバは取り潰されてしまう・・・

 「だから、サファイナには二度と会うまいと誓ったのだ。なのに・・・」

 ルービンは深いため息を吐いた。

 「嘘だ、姫様は・・・サファイナ様はルービン様が『婚約者』だと!『私を置いてギガンティアの姫の下に行ってしまわれた』と!それでも、姫は待つと!!」

 アーバンはまるで子供のように、足を踏み鳴らした。

 「それは、サファイナに私がバラを贈ったからだろう。昔から、この地方では花を女性に贈る事は求婚の象徴とされていた。でも、その思いは、嘘ではなかったのだ。本当に・・・私はサファイナに恋をしたのだ・・・でも、もし、サファイナに婚約者がいたのなら、私とてするはずがなかったのだ!彼女を苦しめる事など、するつもりはなかったんじゃ・・・」

 「でも、姫様は、サファイナ様は死ぬ間際も、頑なに待っていたのに。だから私が姫様の1番美しかった頃の体のまま、姫様の魂を今日まで封印してきたのに!私だって、このように年老いて醜くなっても、姫様だけを、その思いをお守りしてきたのに・・・」

 アーバンは杖をルービンにめがけて投げつけた。

 いや、投げつけようとしたのだが、既に先ほどまでの力はなく、アーバンは元の年齢通りの力しかなく、へなへなとその場にしゃがみこんでしまった。

 

 

 

 

 

  

 

2008年4月20日 (日)

クリスタリアス16

 「ルービン!?」

 サファイナは驚きと喜びの声を上げた。

 「もう止めるんだ、サファイナ。あそこにいる奴こそが、君の求めていたルービンじゃないか!?それ以上やっても、君が傷つくだけだ!」

 「何を言うの、ルービン?ほら、もう少しで邪魔者は私たちの前からいなくなる・・・」

 サファイナは、遠い視線で、微笑みながら言う。まるで、美しい昔の思い出をゆったりと味わうように・・・

 でも、背中から抱きしめている男「アレックス」は容赦なく彼女を現実へと導こうと必死であった。そうしなければ、その美しい思いでは、本当に二度と取り返しの付かぬ過去となってしまうから・・・

 「いいか、よく見てみるんだ。君の愛しいルービンの瞳を!あの紫色の瞳を!」

 サファイナは無意識のうちに、目の前のルービンを見た。そして、紫色に輝く二つの瞳に行き当たる。美しいアメジスト色の二つの瞳・・・焦がれても焦がれても、手に入れることが出来なかった、美しい瞳。

 「ルービン・・・」

 サファイナはポツリと言った。

 「私の青い姫よ、サファイナ。思い出してくれたのか?!」

 サファイナはまるで夢見る少女のように、儚く、愛らしい笑顔を愛する者へと見せた。

 「ああ、ルービンセン!?」

 アレックスは既にサファイナを抱きしめる事を止めていた。彼女はヨロヨロと、しかし、まっすぐに歩き出していたから・・・目の前の恋人に向かって。ルービンとサファイナの間にあった、魔力の壁も、すでに消えうせ、二人の間には障害となる物は何もなかった。一人だけを残して。

 「サファイナ様、いけません!!」

 サファイナは立ち止まった。彼女の目の前には、従順なる老婆・アーバンが立ちふさがっていた。

 「どいて頂戴」

 優しく、けれど厳しく、サファイナは言葉をつむいだ。

 「いいえ、あなた様は私の大切なお方。このような者に心をとらわれてはならないのです」

 「何を言うの?ほら、あれこそ本物のルービンなのよ・・・」

 主人のサファイナがそう言っているのにもかかわらず、なおもアーバンは屈しなかった。

 「だからこそ困るのじゃ!!」

 アーバンは、急に杖をサファイナに向けた。すると、サファイナの体が小さくなり、丸い水晶の中に入れられてしまったのである。アーバンはそれを手に取り、床を杖で突いた。

 「逃げるつもりか!!」

 アレックスは光が部屋に広がる中、そう叫んだ。自分が連れさらわれた時と同じ技を、アーバンがしたのだと、直ぐに分かったからだ。しかし、光の方がそれよりも早かった。一瞬にして、辺りは光に包まれた

 

2008年3月28日 (金)

クリスタリアス15

 アレックスは廊下を進むにつれて、ここが神殿であることに気がついた。暗闇の中に浮かび上がる白い石柱と、水色がかった水晶の飾られた壁は、セレスティアルの神殿と同じつくりであったからだ。アレックスの知っている、豪華な宮廷とはまた違う清潔で、神秘的な作りは、今のアレックスには逆に《気味が悪い》と感じさせるものだ。どこまでも白い廊下・・・ 廊下の突き当りには扉が見える。アレックスはそこを目指して、極力気配を消して歩いていく。丁度、扉がわずかではあるが空いていいる。アレックスは扉の隙間から中を探ってみる事とした。

 中を見て、アレックスは思わず声を出してしまいそうであった。なぜなら、そこには先ほど別れたばかりのリアスと、自分・・・多分ルービンだろう・・・が、サファイナと、その横にいる老婆とが向き合っていたからだ。サファイナは怒りで体の震えが止まらないのであろう、今にもリアスとルービンに襲い掛かろうといった感じであった。

 「騙しても無駄よ。私のルービンを連れ去るつもりだね!?」

 「違うよ、私こそ本物のルービンセン・ロサ・ルキエだよ。サファイナ、そなたが連れて行ったのはワシの孫息子のアレックスじゃ」

 「嘘を付くでない!お前はブラウカによって私を消し去るために使わされた犬だ。その証拠に、お前の隣にいる娘はブラウカの分身ではないか!」

 「そなたへの恋心には嘘偽りなどない、サファイナ。だから、ワシと一緒に行こう。」

 ゆっくりとルービンはサファイナ向かって歩き出す。それと同時に、バチバチっと静電気のような音と光がルービンの周りで起きている。多分、ブラウカとサファイナの力の均衡がルービンが動いた事で崩れたためだろう。老婆は杖をルービンに向けた。杖の先からなにやら黄金色の光が飛び出し、ルービンの動きが止まる。更に青い稲妻がルービンの体の周りに弧を描くように激しく走っていく

 「騙されてはなりません。このモノはブラウカの命を受け、サファイナ様の命を封じるために来たものです。このアーバンが、サファイナ様をお守りいたしますぞ!」

 ルービンは前に出た分、老婆とは思えない力で元の位置まで押し戻されてしまった。再び、力が均衡を取り戻したようで、再び静けさが四人の周りに還ってきていた。

 「私はこの両の腕でルービンを抱きしめたいだけなのに・・・」

 サファイナは黒い髪を片方の手で払いのけると、その手でルービンを指差した。

 「お前はその小さな私の願いの邪魔をする・・・」

 憎らしげにそういい捨てると、手の中で青い光がほとばしり、ルービンの顔めがけて投げつけた。青い光はルービンの顔すれすれのところで見えない壁に当たって、散っていく。それが悔しかったのだろう。何度も何度もルービンめがけて青い光をルービンにぶつけようとサファイナは試みた。

 「おのれ・・・ブラウカめ!!」

 サファイナは両手をルービンにかざし、再び手の中に青い光をほとばしらせようとしたその時。

 「止めろ、サファイナ!」

 気付けば、アレックスは背中からサファイナを抱きしめていた。

2008年3月21日 (金)

クリスタリアス14

 (なんて所から出てくるんだ!?)

 驚きの声にはならない心の声で絶叫するアレックスを尻目に、リアスは机の上に置かれていた水晶を手に取っていた。

 「確かに、よくもまあ、ここまで似るものとはな。血と言うものはまことに恐ろしい。だが、あの姫は人の真の姿を見ることが出来ないのだろう。これほど違うのに・・・」

 リアスは水晶を優雅に手放した。水晶は綺麗な直線を描き、少しの間をおいて、儚くも床に当たって砕け散ってしまった。水晶の中にいた紫の瞳のアレックスは、跡形もなく粉々になって、二度とみることが出来なくなった。

 それを見届けると、リアスはアレックスに剣を向けた。アレックスが宿屋に残していった剣である。

 「さて、いつまで仮の支配に操られておる。早く起きて、己が血族のためにこの剣を振るってくるのだ。我とそなたの契約の元に、この剣で哀れなるモノたちを開放せよ。」

「開放せよって言っても、体が・・・」

 ・・・動いている。アレックスは思わず、口元に手を当てた。さっきまで、動けず、≪とらわれの身≫でいたのが嘘のようである。リアスが何かを施したのであろうか・・・・?

 「まったく、己の力の力量を理解できない奴は沢山いるが、お前は本当に自覚がない。」

 リアスは呆れたように言うと、剣をアレックスに投げつけた。アレックスは、反射的にその剣をバシッと受け取る。数時間ぶりの相棒である剣は、妙に重く、生々しい。

 「さて、あの女は今、ルービンと対面を果たしている頃だろう。お前はルービンの元へいって、あの女との関係を清算してくるがいい。私は用事を済ませてくる」

 アレックスは「ルービン?!」っと驚きの声を出した。なにしろ、今回の原因の張本人はそのルービンなのだから。自分に瓜二つな奴なのは知っていたが、まさかここにいて、しかもリアスと一緒に行動をしていたのだなんて・・・

 しかし、アレックスはそれ以上をリアスに問い詰める事はしなかった。ニヤリっと笑うリアスの瞳が緑から血のように燃える赤色に変わっていることをアレックスは気づいていたから。そして 《行けば分かる》っとリアスが言っているかのように、瞳が光輝いていたから。

 「気をつけてな、リアス」

 アレックスがそういい終わった時には、既にリアスは部屋の外へと出て行った後であった。

 「本当にリアスは動かなければいい女なんだがな・・・」

 頭をボリボリと掻きながら、アレックスはつぶやく。そして、ベットから起き上がると、今回の自分に起きた《誘拐劇》の真相を確かめるべく、部屋をでて、サファイナを探す事とした。

2008年3月20日 (木)

クリスタリアス13

 『サファイナよ、ロサ・アルバの≪蒼きバラ≫よ・・・』

 アレックスはまるで魂までも捧げるかのように、膝を突き、一輪の赤いバラを手にかざしていた。

 『我が美しい姫よ・・・。このバラは私、ルービンセンの心だと思って、受け取っておくれ』

 アレックスはまるで舞台俳優のように、甘いマスクと声で愛をささやく。

 そう、小さな小さな水晶の中で。何回も何千回も・・・

 誰かの昔見たであろう、アレックスの姿が水晶の中に魔力によって映し出されているのだろう。それに、アレックスも今と着ている服装が違っていた。デザイン的に見て、今から100年近く前に流行った服装であろうか・・・それに、映し出されている当の本人はアレックスではなく、ルービンセン、つまり、今回のアレックスが誘拐された原因である人である。確かにアレックスに背格好から顔立ちも瓜二つであったが、まったくの別人であった。瞳の色がルービンセンは赤みを帯びた青色の瞳であったから・・・。

 「ルービン・・・貴方は私のもの。私、貴方が美しいといってくれたままの姿でずっと待っていたの。貴方がギガンティアへ向かわれたときからずっと。」

 その水晶の傍らで、サファイナは美しい微笑をたたえていた。ベットに横たわるアレックスを愛しそうに見つめていた。

 「ギガンティアのあの小生意気な娘に貴方は従うしかなかったのでしょう。私、寂しかったけれど、それも貴方がいれば、もう過去の事・・・ああ、ルービン、愛している」

 白い美しい顔がアレックスに近づく。そして、長年まった愛しい人の唇にそっとキスをしようとしたその時。

 「サファイナ様、あの方がおいででございます。」

 アーバンと呼ばれる老婆は、深々と頭を垂れてドアのところで女主に恭しく進言する。

 サファイナは、あと1cmのところで、念願のルービンへの口付けを辞めると、怒りを露にしながら、でも無言で、ベットから離れた。

 「まったく、嫌なお方だ事・・・」

 そういうと、アレックスを残し、女主と老婆は部屋を後にした。

 それと同時に安堵した人物がここに一人いた。当のアレックスである。

 アレックスは今までの一部始終を見ていた。しかし、宿屋からずっと、体を動かす事が出来ずにいた。正直、今が逃げ出す一番のチャンスなのだが、どうしても体が動かないのだ。

 (困ったな、今頃リアスが心配しているはず。でも、俺がここにいるのを知らせる手段がまったくないし・・・声すら出す事が出来ないなんて。)

 情けないものである。アレックスは、心の中でため息を付いた。

 その時である、胸がチリっと熱くなったのは。この感覚。アレックスは知っていた。そう、以前にブラウカと始めてであった時と同様の熱さ・・・

 そう思ったのと同時に、胸から光がほとばしった。

 (ブラウカのクリスタル!?)

アレックスは、胸にある黒い水晶を思い出した。水晶から生まれた光は、まるで光の泡のようになって、アレックスの目の前で集束し、ある形へと姿をとっていく。姿は次第に光を吸い込んでいき、同時に、アレックスは唖然とした。

 姿はリアスとなって目の前に現れたのだ。

 (リアス!?)

 アレックスは声なき声で叫ぶ。

 「アレックス、お前、バカか?」

 間違いなくリアスであった。

2008年2月28日 (木)

クリスタリアス 12

 ≪ルービン・・・愛しのルービンセン・・・≫

 『今でも、あの姿、あの声・・・忘れたことは一度もないのですじゃ・・・二人が別れてから早や80年・・・これほどの時を経てもなお、思いだけが残り、その火種がくすぶって。あの時、確かに二人の間には「恋」という感情があり、お互の気持ちを共有していたんじゃ』

 と、どこからともなく、しわがれた老人の声。その声は、まるで若い青年のように声を張り上げる。今でもその声の端端からは、これから会うであろう一人の女性への思いが、[まんざらでもない]とでも言いたげな感情すら感じたりする。

 「まったく、血とはどこまでも、似るものだな・・・」

 真夜中、アレックスが宿から姿を消してから30分は過ぎようとしていた。リアスはおそらく、アレックスが連れて行かれたであろう[ロサ・アルバの神殿]を目指しながら、しわがれた老人に皮肉をこめて言う。

 『それはあやつが未熟なゆえの事じゃろうて?しかし、ブラウカの巫女よ。どんなに時がたち、形が異形となり果てても、この記憶は変わらないのですじゃ。』

 「孫が聞いたら、泣くぞ」

 リアスはその声の持ち主を握り締めたまま苦笑いをする。

 リアスは猛スピードで、歩いていた。おそらく、普通の人の3~4倍の速さで道なき道を歩き去っているのだろうか。道なき道・・・どう見ても森であるところが、リアスが来たと同時に自然と開けていき、人一人が通れるほどの道が出来るのだ。そして、リアスが通り過ぎると、元の森へと帰っていく・・・はひたすらロサ・アルバへとリアスを導く。

 「貴公が別れ際にチャンと後始末をしないから、こういうことになったのであろう?」

 『まあ、そういわれれば見も蓋もないが、何せ美しい姫であったのでな・・・』

 「まったく、遺伝と言う奴は、たちが悪いらしい。」

 リアスは無表情のまま、汗をかくことも、息を荒げる事もない。まるで森の精霊のように、または風の精霊のように、銀の髪をたなびかせ、進む姿は美しくすらある。

 「あと30分ほどで神殿だ。神殿に着いたら、後はお前に任せる。少しは自分の尻拭いはしてもらわないとな!」

 やや強い語調で、リアスは声の主に言った。老人の声は『承知じゃよ』とつぶやいた。

 

 

 

 

2008年2月16日 (土)

クリスタリアス 11

 事が起きたのは、アレックスとリアスが互いの部屋へと寝に入ってからである。

 アレックスが部屋に入いり、扉をしめると、そこには二人の来客が待っていた。一人は見知らぬ老婆で手に杖を持っている。もう一人は、その女主であろう。女主は、黒い髪を肩の長さで切りそろえ、アレックスよりも深い蒼・・・海の底深くを映し出したようなそんな蒼・・・の瞳をしている。高貴な家柄なのだろうか?黒い上等な服に、瞳と同じくらい蒼い宝石をちりばめており、それがまた、透けるような白い肌に映えて見える。

『どこかで見たような・・・』と、アレックスは内心思った。ここロサ・ルキエの王族は、遠い血縁関係があるので、アレックスに会いに来たのだろうか?しかし、今回の旅は誰も知らないはずの旅である。それはまず却下として。でも、確かに、アレックスはどこかで女主を見たことがあるのだ。でも、いつ?となると、それが曖昧なのだ。もちろん、コレだけの美貌の持ち主、アレックスが王家同士のお見合いのために見せられた肖像画の中にいたのかもしれない。しかし、それならばなおさら名前を忘れる事はない(そういう記憶力は天下一品である)

 「久しぶりね、ルビーン。私を忘れたと言うの?・・・酷い人」

 アレックスはハッとした。

 「ルビーン?!!」

 アレックスは、頭にあった霞が消え、急に彼女を思い出す。まだ子供だった頃の記憶の中に、確かにこの女性はいたのだ。

 「では、貴女はロサ・アルバの?」

 しかし、それはもう一人の人の記憶の中でこそ大切に思われていた人・・・

 アレックスがその事を確かめようと口を開く前に、女主はアレックスの方へと歩き出していた。アレックスは、それをただ見ているだけしか出来なかった。気づけば、体は見えない何かに自由を奪われ、動きが取れなくなっていた。

 「今頃思い出したの?・・・憎い人。でも、やっと貴方は私の元へ還ってきたんですもの。許してあげましょう。」

 美しくも、怪しい笑み。心がとろけてしまう様な、魅惑の微笑み。

 女主はアレックスの顔に細く白い指で触れた。アレックスは声さえも出せない状態になっていた。

 「アーバン!」

 後ろで控えていた老婆を呼ぶと、老婆は手に持っている杖を持ち上げると、コツンと、床をたたいた。その叩いた先から黄色い光が溢れ出し、床一面に広がる。次の瞬間、光は三人を飲み込むと、一気にその場から消えた。それと同時に、三人の姿も消えたのである。

2008年2月 1日 (金)

クリスタリアス10

 ロサ・アルバは神都セレスティアルから歩いて10日程かかるところにある田舎町である。セレスティアルから隣国ロサ・レビガータ(ギルド共和国)を通り過ぎ、更にロサ・ルキエ王国を更に東に向かったアルバ山脈の麓に位置する。

 リアスとアレックスもロサ・アルバに入る前にロサ・ルキエで宿を取って、旅の疲れを取ることにしていた。どこの国でも例外はなく、大概の王家は皆血縁関係を結んでいて、ロサ・ルキエの王家とロサ・ギガンティアの王家もかなり親密な血縁関係である。

 「俺の祖父はここからギガンティアに婿養子に来たんだそうだ・・・」

 アレックスはやっとありついた食事に舌打ちしながら、『ルキエと自分の関係』をリアスに話出した。そんな話は、リアスに言わなくても思うだけで『筒抜け』状態なのは百も承知だが、思った瞬間に言ってしまえば不愉快な思いをしなくても言い訳で。(ただのアレックスの自己満足なのだが)リアスも渋々受け入れているようだ。多分、人目に付くところだから、と言うのもあるのだろう。しかし、次のアレックスの言葉が、宿屋の食堂の雰囲気を一変させてしまったのだ。

 「まあ、明日はロサ・アルバか・・・楽しみだな」

 そういって、アレックスは果実酒を飲み干そうとした、その時・・・

 「あんたたち、ロサ・アルバにいくんかね?!」

 となりの席の初老の男だった。

 「ああ、そうだが?それが何か?!」

 周りのお客たちも、ザワザワと噂を始める。雰囲気的に不吉な予感がアレックスにはビンビン伝わってくる。そして、隣の席の初老の男は、ためらうように、咳払いを一つしてから、小声で話し始めた。

 「悪い事は言わね、ロサ・アルバにいくのはやめといたほうがいい」

 初老の男は更に続ける

 「あんたたち、この辺のお人ではないだろうから知らんだろうが、あそこは『忘れられた町』って言って、ロサ・ルキエの者でさえも、ここ30年は行った者がないんじゃ。それに・・・」

 「それに?」

 「それに、あそこには『アルバの魔女』がいて、迷ってあの町に入った者を捕まえては食ってしまっているという話だ」

 ・・・聞いてないぞ・・・そう思いながら、アレックスは血の気が引いた顔をリアスに向けた。

 「それで、その魔女はどこに住んでいるんです?」

 「あんた、恐ろしくないのかね?!」

 リアスは真顔でうなずくと、

 「私たちは彼女に用があるので」

 と、言い放った。

 その後、二人の周りにいた人々はクモの子を散らすように跡形もなく消えたのは言うまでもない。

 そして、アレックスはしばらくの間、頭が機能しない状態であったのは言うまでもないが。

 リアスはそんな事はお構いなしに、しっかりと初老の老人だけは逃がさず捕まえていたので、魔女の居場所だけはしっかりと聞き出すことが出来ていた。

 部屋に帰るなり、アレックスはリアスに問い詰めた。

 「魔女に会いに行くなんて、契約違反だろう!?」

 「なんだ、魔女が怖いのか?神には剣を向けたくせに?」

 ま、魔女よりは神の方が普通怖いものなのだが・・・

 「だが、水晶を置きに行くだけだって!」

 リアスは、こくんとうなずいてみせる。

 「そのとうりだが、なにか問題でも?」

 魔女でも何でも、水晶を置きに行くのは変わりない。しかし・・・

 「契約が危ないものだなんて聞いてないぞ!!」

 「内容も確認せず、承諾したのはお前だろうが?!!」

 そんなこんなで、結局アレックスはリアスに無理やり言いくるめられたのである。アレックスは思った。だから、神なんて信じないに限るっと。

 

クリスタリアス9

 「おや、誰が向かってきているかと思えば!とんでもないお方がコチラに向かってオイデでございます・・・」

 老婆は水鏡に映し出された旅人を見るなり、そうつぶやいた。黒い、頭から足までをすっぽりと覆うマントをまとった、小柄な老婆である。既に100は超えているであろう、しわがれた顔と手だけが暗闇にうっすらと浮かび上がっている。

 「どうなさいますか、サファイナ様?」

 老婆は、美しい自分の主を仰ぎ見る。

 「ほう・・・誰かと思えば。よくもヌケヌケトこの町にこれたものだ。」

 サファイナは、ゆっくりと老婆の傍にある水鏡を覗き込むなり、憎々しげにつぶやいた。

 20歳代後半の美しい女性である。青黒く輝く肩で切りそろえられた髪、冬の海を思わせる深い蒼いも瞳。均整の取れた肢体・・・美女と言うにはかなりの高レベルの美女と言わなくてはならないだろう。とれにともなって、プライドも一級品である。

 「今頃私の元に来て、許しでも請いにきたとでもいうのか?ばかばかしい」

 「しかし、連れの方は邪険には出来ますまいぞ。」

 「分かっておる、ばあや。」

 細く美しい指を水鏡の縁にワナワナと震えさせながら掴んでいるサファイナの瞳は青く怒り輝いていた。

 「ならば、ここに誘い込んで、今度こそ逃がしはするまいぞ。分かっておるな、ばあや・・・」

 低く、地の底から響くような声・・・

 その声に、老婆は小さく「御意」と返事をした。

 「待って折るぞ・・・我が婚約者よ」

 サファイナはバンっと水鏡の中に手を突っ込むなり、大声で笑った。

 

 

2008年1月31日 (木)

クリスタリアス8

 「で?」

 アレックスはどんよりとしながらリアスに問いかけた。

 「ブラウカとの契約って何だったけ?」

 リアスは一言「バカか、お前は?」といった。

 「いいか、コレだけは言っておく。俺は決してバカではない。ただ、契約を聞く前に意識が遠のいただけだ。それに、俺はお前と違って普通なんでね。」

アレックスは、ややあきれたように馬に跨って共に旅する相棒を見やった。

 既に旅支度を済ませた二人は、衝撃的な事実を(アレックスだけだが)知った3日後に旅にでていた。始めてあったときに比べれば、言葉遣いも親しげ(?)になったし、お互いによそよそしさはなくなった(と、アレックスは思っている)のだが・・・なにせ、アレックスの方が断然不利である。リアスが何を考えているのかなど、皆目検討も付かない。反対にリアスは顔を見るなりため息をつく。何せ相手が『神の心を宿す』ブラウカなのだから。考えている事は全部丸き声なので。

 リアスは今日4回目のため息をつきながら話し始めた。

 「ロサ・アルバを知っているか?」

 「ああ、辺境の町の?」

 ロサ・アルバはロサ・ムンディの東に位置する小さな町で、『忘れられた都』との異名を持つ町である。常に隣り合う二つの大国ですら、攻め込まず、ここ数百年間はどこの国にも属さないためにそう呼ばれている。

 「そこの神殿にこの水晶を置いてくる」

 リアスは青く光る水晶をアレックスに見せた。

 「それは?」

 「今回の依頼物だ」

 ・・・依頼物?

 少々言葉に違和感を感じたが、様はこの水晶と何か関係がある内容のようだ。それとも・・・

 「まさかな」

 「それ、まんざらでもないぞ」

 「え?」

 アレックスはまた心をリアスに読まれたのだが・・・でも、それよりも『まさか』がまんざらでないと言う事は・・・

 アレッテクスは嫌な予感を抑えながら旅の目的地へと向かった。そして、それは的中するのだが。

 まあそれはさておき、アレックスはフト思う。なんで自分がと。たかが王家の一人と言うだけで(しかも次男だったし)しかも、だ。兄が剣を持ってこなかったというだけで・・・たったそれだけで今回の事に巻き込まれ、あげくに辺鄙な片田舎に他人のために行かなくてはならなくなったのだ。(まあ、多少下心もあったのだが・・・)アレッテクスにしてみれば本当にいい迷惑なのだ。それなのに・・・

 「なんだ?文句があるのか?だがよいではないか。『可愛い女との二人旅』なんだろ?」

 コレなのである。アレックスは不愉快な思いと、それでいて彼女に惹かれているどうしようもない複雑~な思いにさいなまれているのである。純情な男心・・・

 「本当に、お前って単純だな。まあ、その方が私は楽だがな♪」

 魅惑の緑色の瞳が、キラリと一瞬暗黒赤に変わるリアスの瞳・・・まさに天使の微笑が魔物に見える瞬間である。心和むはずの緑豊かな旅路は、どんよりとアレックスには写っている事だろう。

 そうしてアレックスはリアスの言うがままにもてあそばれながらロサ・アルバへの旅路を進むのであった。

 

 

クリスタリアス7

 「いつまで寝ているつもりだ」

 アレックスは聞き覚えのある言葉と声で目を覚ました。

 「リアス・・・?」

 アレッックスはうすぼんやりと記憶をたどる。確か、リアスに起こされて、クリスタルを持って神殿に向かっていた途中・・・

 突然、激しいほどの記憶の洪水がアレックスの頭に沸き起こり、アレックスはその場に飛び起き、周囲を見渡した。

 「ここは・・・」

 そこは部屋の中であった。そう、確かにアレックスは昨日の夜、この部屋に泊まったはずで・・・いや、それは夢であったのだろうか?・・・生々しい夢。

 「何をそんなに驚く事があるのか?」

  ニヤリと笑うリアスにアレックスは違和感を抱きながらも、次の言葉を発していた。

 「リアス、お前ブラウカに会ったことがあるか?」

 「なぜ?」

 「いや、その、どんな人なのかと・・・」

 アレックスはチラリとリアスに視線を向けた。すると、リアスの反応がいつもと違う事に気が付いたのだ。そう、リアスが笑っているのだ。アレックスは一瞬リアスに見とれてしまった。そして、不覚にも『可愛い』などと思ってしまったりして・・・

 リアスはクスクスと笑ったかと思うと、アハハッと声をだして笑い始めた。そして、手を腹に置きながらアレックスが横になっているベットに座り込んだ。アレックスはドキッとした。

 「ブラウカならいつも一緒だ」

 「え?」」

 アレックスはフト考える。セレスティアルの人々は本当に信仰心が厚いのだろうと。まあ、自分も先ほどの夢であろう出来事がなければ、こんな風に思うこともないだろうが。と。大体、ロサ・ギガンティア人はもともと王家への忠誠心はあっても、信仰心は余りないのだ。見えないで何もしない神様より、目の前にいて、自分たちのことを守ってくれるものに対して人はすがりやすいものである。

 「いや、信仰的なことではなくって・・・」

 「お前だって、当分は嫌でも一緒だ」

 アレックスは自分が言っている事がリアスに通じていないのか?と思った。なんと言ったら通じるのだろうかと、色々と考える。それを見ていたリアスの方がその数倍アレックスが分かっていない事は認識しているのだが・・・リアスは『仕方がないっか』と、ため息をついた。

 「お前、さっき、私のことを『可愛い』って思ったろう?」

 ・・・?

 突然の言葉に耳を疑った。

 「今、なんて・・・?」

 「前も美人なのだから少しは優しく『いらして』と言えば言い寄る男が沢山いるのにって、思ったことがあったろう!?」

 アレックスは、真っ白であった。

 「この際、お前ほど頭の回転が鈍い男だから言っておく。」

 リアスは再度ため息をつくと、こう言い放った。

 「私が『新たなブラウカの器』だ。先ほどの契約は成立したため、お前にはしっかり働いてもらうから、頼んだぞ」

 アレックスは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

2007年12月24日 (月)

クリスタリアス6

 神殿は朝日を浴びて、白く輝いていた。

 「なんと神々しいものだな」

 アレックスは目を細めながら、白亜の巨大な建物を見ていた。

 「何をしている。付いて来い。」

 リアスは無表情にそっけない。アレだけの美人なのだから、少しは優しく『早くいらして』なんて言えば、男の10人や20人は直ぐにでも付いていくというものを・・・などと、ついつい考えてしまうアレックスであったが、「今行く」と現実の口からは返事が出ていた。

 なにせ、神殿は入り口だけで100段ほどの階段が立ちふさがり、リアスは既に階段を上り終わり、アレックスもやっと半分まで上ったところであった。他の参拝者も、登るのは至難の業であるのだろう。休み休み自分のペースで登っている。

 アレックスの額に汗が浮かぶ。

 「まったく、兄上はこんな階段、登らなかったに違いない。何が『ブラウカに逢えなかった』だ。絶対、逃げて帰ってきたに違いない!」

 やっとのことで前段を上り詰め、ハアハア、と流石のアレックスも荒い息をはいていた。そして、人々が誘われるかの様に白い神殿の中にはって行くのが見えた。入り口には神殿に使える巫女がいて、人々から何かを受け取っている。多分、リアスの言っていた水晶を渡しているのだろう。

 「まったくお高い神様だ」

 アレックスはつぶやく。

 その時、懐が再びチリっと熱くなった。先ほどの感覚よりは更に熱く、まるで胸を直接火であぶった様な、激しい熱さであった。黒い水晶が熱を放っているのだ。アレックスは懐から熱の元を取り出した。水晶は既に黒くはなかった。まるでそれは太陽のように黄金に輝き、熱を放っていた。

 いや、熱というより、あふれ出る力・・・

そういったほうが正しいのかもしれない。

 アレックスは水晶を手から離たが、水晶は宙に浮かび、なおも輝き続けている。アレックスは、神殿の人々を見ようとしたが、そこには何も存在していなかったのだ。

 神殿も、巫女も、人々も、そしてリアスも・・・

 アレックスは、無意識に剣に手をかけた。そして、水晶に向剣を向けた。

 「我はアレックス・ロサ・ギガンティア。古き血の一族なり。さすれば、この妖しを見せる水晶は何ものぞ!我を元のところに戻すがよい!」

 青い瞳が冷たく光る。

 目の前に繰り広げられる、光を帯びた絶大な力が、更にその青い瞳をギラリギラリと輝かせて見せる。

 アレックスは剣を高く振り上げると、今にもその力の元である水晶であったものに振り下ろそうといわんばかりに構えって見せた。

 『古き蒼い血の者よ 剣を引くがよい』

 アレックスは、静かな声が聞こえるのに気づいた。

 「我に問いかけるは誰か?」

 アレックスは剣を構えたままである。

 『私はブラウカ・・・貴殿は私に会いに来たのでしょう・・・』

 アレックスはゆっくりと剣をおろすと、鞘に収めた。それと同時に、あふれ続ける力は一瞬にして水晶に引き戻された。しかし、水晶からは収めきれないのだろうか?煙のように光がチョロチョロとこぼれ、熱量は今なおアレックスに感じて取れる。

 『許して欲しい 何せ今日は新たな器に移動する日だった・・・それも貴殿のお陰で無事に終わる事が出来た。』

 アレックスは首をかしげた。なにせ、階段を登った以外、何もしていないのだ。礼を言われても、である。それを感じたのであろう、ブラウカはクスクスと笑っているように、暖かな波動を水晶から放った。

 『もともと私はこの世のモノでは収まらないのです。だから100年に一度、器が消えると同時に、新たな器に入る。しかし、その時には、汚れた力をも一緒に器に引き込んでしまう恐れがある。そこで、古き血族である貴殿を呼んだのです。古き血は魔が嫌うので。

 アレックスは、なおいっそう首をひねる。

 「何で俺を?って、いうか、兄が来たはずだろう?」

 『いいえ、兄上はお持ちではなかったのです。その聖剣を』

 アレックスは剣を手にした。確かに、この剣は先祖代々受け継がれてきたものだが・・・

 『私に汚れが付かないように、あなたの古き剣が私の不安定な力を一晩守ってくれたのです。』

 アレックスは、なんだかよく分からないが、『ブラウカ』に感謝されている事はよく分かった。しかし、だ。

 「不本意であんなを助けたのは分かった。しかし、俺はあんたに逢うつもりはなかった。このままでは俺は王とならなくてはならん。それはどうしてくれるんだ!?ブラウカよ。」

 そう、そこが1番大事な事なのだ。大体、兄が本来は王になればよいのに、他人の都合で、こうなってしまったんだなんて・・・兄がはじめから剣を持ってきさいすれば、こんな面倒にかかわる事もなかったのだ。っと、アレックスにしてみればいい迷惑なのである。

 『あら・・・つまり、先に兄君が王位を継げばよいのですね?それならば貴殿、私のお願いを聞いてくださるかしら・・・』

 「ああ、王にならなくてもいいなら何でも聞いてやるさ!」

 『確かに。貴殿はこのブラウカとの契約を交わした。頼みましたよ・・・』

 その後、急にブラウカの声が遠のきはじめた。何か頼まれごとを聞いたような・・・しかし、アレックスもその声と同様に気が遠くなり、そのまま気を失ってしまったのであった。

 

 

2007年12月20日 (木)

クリスタリアス5

 「おい、いつまで寝ているつもりだ」

 アレックスは『また誰かきたのか?!』っと思った。しかし、この声には聞き覚えがあった。声の主の顔を思い浮かべるのと同時に金髪の青年は飛び起きた。

 「お主は、昨日の事ですら寝てしまうと白紙になってしまうよだな」

 朝日で銀色に輝く髪、深い緑色をたたえた瞳・・・

 すらっとした四肢の女性。昨日逢ったばかりの女性だ。

 「いや、ね。昨日から来客が多くてね。」

 アレックスはいたずらっぽく笑った。

 リアスは、そんなアレックスを上から下まで見ると、フンと鼻を鳴らした。

 「まあ、男の一人旅だ。女の一人や二人は連れ込むのはいいが、余り聞いていて気分のよいものではないな。」

 アレックスは、ハッとしたが、末にリアスは部屋から出るところだった。

 「これから神殿に行くのだろう?早く仕度を済ませろ。」

 リアスに背中越しにそういい残され、アレックスは部屋に取り残された。

 『・・・しまった、リアスに変な誤解をされた!』

 アレックスは顔に右手を押し当てた。最悪である。まあ、昨日彼女に会わなければ、そのとうりであったのではあるが・・・でも、自分は無実であるのに、何とも気分が悪い。

 アレックスは、この事態の元凶である物の存在を思い出した。胸元にある硬い鉱物を手に取り、マジマジともう一度見てみた。黒い水晶は夜中と同様に星が瞬いていた。本当に今までに見たことの無い、不思議な水晶である。まるで、夜の一部を水晶に閉じ込めたような・・・

 5分ほど見ていたが、亭主が「朝飯ですぜ」とドア越しに声をかけてきたので、水晶を元のところに戻し、出かける仕度を済ませて、部屋をでた。

 一階の食堂は既に人がまばらになっており、ひとつのテーブルに銀に輝く髪の主が座って待っていた。アレックスはリアスの分の朝食も亭主に用意するように頼んでから、彼女の前に座った。亭主が簡単な二人分の朝食を机にそっけな置くと、リアスが口を開いた。

 「お前、神殿に行く前に、水晶は持ったのか?」

 「水晶?」

 アレックスは、懐にある黒い水晶がチリっと熱くなったように感じた。

 「何で水晶を?」

 緑の瞳が一瞬赤みを帯びたように見えた。

 「知らんのか?水晶はブラウカの象徴。神殿に入るものは必ず水晶を持っていないと入れてもらえないのだ」

 アレックスは『へ~』っと、食事をほうばる。ここの亭主はなかなか料理が美味い。あっという間に食事を平らげると、アレックスは大きく満腹の声を上げた。

 「水晶は丁度持ってはいるがね。」

 落し物の水晶ではあるが。

 「では、話が早い。直ぐに神殿に行くとしよう」

 「あ、いや、しかし・・・」

 アレックスが『俺のものではないのだ』っと、言いかけたが、リアスは待ちきれないといった様子で、頼んだ食事もほとんど手をつけずに席をたった。そして、そのまま外へと出て行ったのである。

 「まあ、取り合えず、借りておくか」

 アレックスは食事代を亭主に払うと、リアスの後を追った。

 なんだか、話がやけに進みすぎているような、変な方向に進んでいるような・・・アレックスは妙な気持ちを抱きつつ、リアスと共に神殿に向かう事となったのである。

2007年12月14日 (金)

クリスタリアス4

どこかから声がする。

『そら、コレで最後だよ』

年をとった女性の声。

『ハイよ』

こっちは中年の男の声。

『早くしないとブラウカがお待ちだ』

ブラウカ?アレックスは半分寝ながら正体不明な声に耳を傾ける。

『明日はブラウカの・・・だからこのものを・・・・いいかい、失敗は許されないんだよ』

『分かってらい。さてと、コレでいいだろう。』

『しかし、ブラウカも困ったものだよ。なんでこんな吾人に・・・』

『まあ、仕方がないさ。ブラウカは気まぐれだ。頼んだぜ、兄さんよっ』

男女の声は聞こえなくなった。

アレックスは、ゆっくりと目を覚まし、先ほどまでいたはずの二人の声の主がいない事を確認した。それと一緒に、ここが「山猫亭」であることは理解できた。別に、何かが変わっているということはない。

 「さっきの声は夢か?」

 アレックスは先ほどの生なましい会話を思い返すが、そんなはずはない。外もまだ暗く、朝が来るまでにはあと数時間はかかるだろう。

 ’コトン’

 何かの落ちた音がした。

 アレックスは先ほどの事もあり、ベットから飛び起きる。辺りを目を凝らしてよく見てみると、床の上に何か入った袋が落ちていた。

 「コレが音の犯人か?」

 アレックスは袋を手に取った。ズシリっと重い感触だ。アレックスは袋の中身を直ぐに確かめると、それは手のひら程の水晶のようである。ただ、他の水晶と違うのは、真っ黒な水晶で、それでいて透明になっているのだが、中には沢山の星がキラキラと瞬き、光を放っている事であった。

 「コレはいったい?」

 これはかなり高価なものである事は、間違いないのだが・・・アレックスは、もう一度部屋の中を見回したが、やはり誰もいない。

 「まいったな。俺は落し物は専門外なんだがな」

 柔らかな髪をクシャクシャと掻いて、アレックスはため息をついた。

 「せめて物には名前を書いておいてくれないとな」

アレックスは、渋々自分の懐に水晶を入れることとした。そして再び眠りに付く頃には、気のせいだろうか、水晶が自分の懐の中でホカホカと暖かいような気がした。アレックスは、明日、亭主にこの水晶を預けて、神殿での用件を早く終わらせようと思った。どうせ、門前払いに決まっている。ああ、そしたらリアスに昼ごはんをおごらせてもらうとしよう・・・

 あれこれ考えているうちに、アレックスは再び眠りに入っていた。

 

 

 

2007年12月11日 (火)

クリスタリアス3

 「ドットも早く財布をお返ししろ。ギガンティアの近衛隊を相手に、ただでは済まぬぞ。」

 いつの間にか、人垣は自然に三人の周りから消えうせ、いつものように人々が行きかっていた。トッドと呼ばれた子供は、「リアスがいたんだったら仕方がね~や」と、渋々女性に言われるままにアレックスに財布を返し、あっという間に人ごみの中に消えていった。

 「済まぬ。アレの親は目が不自由でな。ああやって妹たちを養っているのだ。許してやってくれ。」

 見た目は20歳くらいのパキパキとした印象を受ける女性は、アレックスにそう話しかけてきた。アレックスも、トッドなる少年の根性のいいところが気に入ったのだろう。

 「今度はチャンとお金が渡せるように、俺の従者にでもなってもらうさ。」

 と、ニヤニヤとつぶやいた。

 「寛大、痛み入る。しかし、無用心に歩かれる貴殿もいけないのでは?気をつけられよ。それでなくともその金髪は目立つからな。私はリアス。」

 リアスはクスリっと笑った。アレックスの故郷、ギガンティアは、ロサ・ムンディ大陸の中では珍しい金髪・青瞳の民であり、ここまで見事な金髪は王侯貴族だという事の証拠でもある。神都セレスティアでも、かなり目立つのは確かである。

 「俺はアレックス。まあ、先祖から代々受け継がれた髪だから仕方ないがね。」

 苦々しく青年貴族は笑って見せた。

 リアスとアレックスは神殿前の人ごみから抜け出し、一本横にそれた道へと入った。既に日は傾き、そろそろ空が茜色に染まり始めている。アレックスはどこか宿がないかと、リアスに聞いた。

 「この先にいい宿がある。トッドの件もあるから、亭主にいい酒でも出してもらうように言っておこう。」

 リアスは「山猫亭」という宿屋を紹介すると、約束どおり、太った亭主が満面の笑みで迎えてくれた。亭主に馬を預け終わると、アレックスはリアスに礼を述べた。

 「取り合えず、今日はコレで休むとするよ。宿まで紹介してくれて感謝する。俺は明日は神殿に行くつもりだ」

 「ああ、それならセレスティアル神殿は私が案内しよう」

 「おや、それはありがたい。ではまた明日。」

 アレックスはクリスと分かれると、一階の食堂で食事と酒を所望した。亭主はセレスティアル特産の果実種と、肉料理を振舞った。その料理の美味いこと・・・。アレックスは上機嫌で平らげると、ほろ酔いで二階に借りた部屋へと上がっていった。

 「こんなに美味い料理は久しぶりだ。神殿もなんとか入れそうだ。まあ、なんとかなるさ・・・」

 剣を腰からはずすと、アレックスは急に眠気に襲われてきた。アレックスはその眠気に抗う事無く深い眠りに落ちていった。

 

 

 

2007年12月 6日 (木)

クリスタリアス2

 アレックスはセレスティアルの街に入ると、馬を降りた。小国といえど流石聖地である。巡礼客や、それにあやかって商売をする商人、街を警護する軍隊など、どこもかしこも人だらけなのだ。老若男女入り乱れる様子は、人々のたくましさを感じさせられる。

 アレックスが町並みをキョロキョロと面白そうにみていたその時、ドスンと何かにぶつかったような衝撃を受けた。それと同時にアレックスは胸元に何かが入ってきた感触を感じると、その何かを素早く掴みあげた。

 「いててててーっ」

 アレックスが握っていたのは、財布を持った子供の細い腕だった。もちろん、子供がこれほど立派な財布など持ち歩くはずもない。アレックスの財布だ。

 「おや、俺の財布をどうするつもりだったんだ?」

 やんわりと、でも、その言葉とは裏腹に子供の腕はしっかりと握られている。子供はキッと睨み返す。

 「落ちていた財布を拾ってやったんだ、その恩人を泥棒扱いとはいったいどういうこんだ!!」

 今まで人の河であったはずが、今ではアレックスたちを中心に人垣ができあがっていた。神都と言えども騒ぎは皆の目を引くのだろう。『どこも人間は同じだよね~ヤダヤダ』っと心でアレックスはつぶやいた。

 「そうかい?でも、俺が君の手を掴んだのは、確か俺の懐だった気がするが?それとも、俺の懐はそんなに広いのかい?」

 ニヤニヤ・・・

 アレックスは楽しそうに子供に話しかけた。同時に腕を掴む手に力が入る。

 「いてっーこいつ、ワザとやってるだろ!!」

 半べそをかきながらも、財布を放さない。『いい根性してるな~うちの軍隊にスカウトしたいくらいだ』などと思いながら、更に力を入れようとしたそのとき・・・

 「もういいでしょう?お客人」

 女性の声だった。

 「リアス~」

 子供がすがる目で声のする方を見ている。アレックスも、声の主の方へ顔を向けた。誰もが、声の主の方を見ていた。

 銀の髪、緑色の鮮やかな瞳・・・意志の強さがその瞳からはうかがい知れた。

クリスタリアス 1

 神都セレスティアル。

 ロサ・ムンディ大陸第一の都であり、大陸の中央に位置する内海に面した緑豊かな美しい都であり、神々の神話が今なお色濃く残る神話の都である。

 小さな神の都・・・四方を大国と内海に囲まれたこの国が存在しているのは、3千年前前からあることは、書かれた書物によって分かっているが、いつどこでこの国が創世されたのかは分かっていない。ただ、「花香雷光伝」(ロサ・ムンディ最古の伝説の書)にはこうきされている。

 「神の慈悲より生まれし者 それつまり ブラウカなり

 神の心を宿すブラウカは 人々を神のもとに導かん

 ブラウカは神の献花なれば 神は常にブラウカと共にあり 

 ブラウカを欲するもの その代償は 己が命なり・・・」

 人々はこの神都の主を敬い、ブラウカから神の声を聞き、長い事平和を維持してきた。もちろん、王侯貴族も例外ではない。王侯貴族が即位する時、ブラウカから神の声を聞き、神からの祝福をもらった者が国の支配者となるのだ。ブラウカに認められず王位を別のものに譲ることも稀ではあるが、なかったことではない。

 以前、ブラウカの意に反して王を名乗った王がいたが、隣国との小競り合いが起こり、結局見方に命を奪われたことがあった。人々は『ブラウカの言いつけを守らなかったからだ』と、ますますブラウカを敬った。

 神からの贈り物・・・人々はブラウカを敬い、ブラウカの住むセレスティアルを神都として神格化したのだ。そう、何千年もの間、ブラウカは秘密のベールに隠れ、誰も見たことがないのだ。男なのか、女なのか。年はいくつなのか。どうやって世代交代して今に至っているのか。予言はどのようにしてなされるのか・・・ブラウカ自体一人なのか・・・?本当はブラウカ自体が存在しないのか・・・

 ブラウカはロサ・ムンディの最大の宝でありながら、最大のなぞであるのだ。

 

 「そんな奴に己の人生を任せるのは変な話だよな~?」

 鼻歌交じりに自分が乗る馬にそう問いかけながら、青年貴族は笑った。青年貴族の名はアレックス・ロサ・ギガンティア。ロサムンディ大陸最大の国ギガンティア帝国の第二位帝位継承者である。金の柔らかな髪、青石のような深く澄んだ瞳。年は25歳くらいだろうが、どこかヤンチャな雰囲気が残る青年である。

 彼は、祖国を遠くはなれ、目指すセレスティアルまで目と鼻の先のところまでやってきたところであった。アレックスの目的、それは彼の先祖がたどったのと同じであった。つまり、「帝位継承をするにあたり、神からの祝福をもらえるかお伺いをたてる」のだ。

 帝位継承権の第二位・・・つまり、本来は彼が「伺い」をするにはまだ順番ではない。彼ものんびりとそう考えて25年間生きてきた。それどころか、自分は一生無関係で死ぬものだとたかをくくっていた。しかし、つい先日突然それはやってきたのだ。帝位継承権第一位であり、兄のサファーヤ・ロサ・ギガンティアが「お伺い」の旅から帰ってきた時から・・・

 サファーヤはブラウカに逢いにセレティアルまで行ったが、神殿に入ることもたがわず、あげくの果てに、『そなたは帝王の座ではなく、美術の世界で名を上げるがよい』と書かれた手紙を神殿の使いより手渡されたのである。それを見て大喜びしたのは誰でもないサファーヤであった。ギガンティアに帰ってくるなり、「後はお前に任した!」と、以前から傾倒していた絵画の巨匠の門をたたいて弟子入り・・・つまり、隠遁生活を送ってしまったのである。父帝も「我がギガンティアの歴史において、なんたることか」と力を落とし、寝込んでしまう始末。仕方なく、アレックスにお鉢が回ってきたと言う訳である。

 で、アレックスも、今のままでは祖国に居場所がなく、帝位も継げるかどうかも分からないこともあり、仕方なくセレティアルへの一人旅行となってしまったのだ。

 「俺なんか行ったら、ブラウカに門前払いされると思うけどな~」

 アレックスはやれやれと、やっと見えてきた白い町並みに目をやった。